「僕のRPGは現実世界になる」
僕はオンラインRPGにハマっていましたが、それはただのゲームだけに終わりませんでした。
そこから得たものは今の仕事にも生かされているのです。
それはどんな内容だったのか書こうと思います。
小説並みに長くなるので少しずつ書きツイートしてからブログにもまとめます。

尚、とても残念なことに当時ゲーム内で散々撮ったスクリーンショットが見つかりません。
もしどこかにあればブログに貼りたいと思います。
パソコンをしょっちゅう変えているし、リカバリーもしているので、
もしかしから外付けハードディスクに残っているのかもしれません。
そこまではまだ見てなくて。


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『僕のRPGは現実世界になる』
第1話


目を開くとそこには腰までの草が生えていた。
眩いばかりの緑がぱっと広がる。
僕は布をまとっただけの質素な服で突っ立っていた。
遠くから心地よい音楽が流れてくる。
ハーブのような柔らかい音色だ。
どこから鳴っているのか虫の声と合奏している。

僕は今日からこの仮想空間に住むのだ。
ネットでアクセスする多人数参加型ロールプレイングゲーム(MMORPG)だ。
これを目にした時ワクワクした。
現実世界の僕というキャラクターではうまくいかないから余計にだ。
新しく生まれ変われる、強くて逞しいかっこいい僕にね。
そんな夢を見ていた。

住み心地は良さそうだ。
自分の身体を確かめるように歩いたり走ったりしてみた。
走るたびに僕のブロンドの髪が跳ねた。
冒険は大好きだ。
行ったことがないところに先陣を切って行くのが性に合っている。
だから懐にナイフを持っていることに気が付いたとき小躍りしたのだ。

「これでモンスターを倒せる。」

この美しい草原には場違いなくらいの変な顔をしたモンスターが出た。
はじめて出会ったときは驚いたがもう慣れてしまった。
今では一撃で倒せるようになり倒してもらえる報奨金で少しずつ防具を買い揃えた。
何しろ戦うのに質素な布の服では僕のダメージが大きい。
一気には買えないのでコツコツと集めた。

そのうち同じ場所で戦うアルと顔見知りになり
お互い励ましあいながらモンスターを狩るようになった。
アルは茶色の髪の無口な男で僕がログインするといつもいた。
ある日のことだ。

「向こうの街エリアに行かないか?」

ゴブリンを倒しながらアルは言う。

「いいね。街!よし、すぐに行こうよ。」

それには準備だ、と僕は野原の倉庫に走り出した。
嬉しくてたまらない。
いつか街には行ってみたかったが道中一人ではきつかったのだ。
ワッとモンスターに囲まれて僕はすぐにいつもの草原に戻された。
二人で助け合えば街に着くかもしれない。

さようなら美しい草原。
僕には次のステージが待っている。

遠くの方で僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
優しくて穏やかで。
あれ、誰だったかしら。
ふっと薄目を開けてみる。薄暗い柔らかな光の中に人がいる。

「起きた?学校ですよ。スクランブルエッグ作るからね。」

そう言うとその人は去って行った。
学校ってなんだ、アルはどこに行ったんだ確か街に着いて。

そうだ、命からがら散々だったけれどなんとか街には着いたんだ。
酒屋から賑やかな音楽が鳴り響く街は
どこもかしこも石畳が敷かれ人がひしめいていた。

各々が好きなように店を出し、商売をしてお金を貯めていた。
その光景に2人で面食らい、田舎者だったことを思い知らされた。
そこはまるで別世界だ。

美しく光り輝く七色の防具や剣を持ち、優雅に仲間同士で語り合っていた。
彼らはまるで天使のようだ。

聞いたこともないモンスターの名前も聞こえた。
僕が着ている防具なんて捨てるような価値だということも知った。
途端に恥ずかしくなり肩身の狭い思いをした。
もっと稼いで良い防具を揃えたい。

僕は唇をかんだ。
悔しいと思った。
アルもそうだろう。
二人で橋の上に立ちただ黙って茫然としていた。

仮想空間の川は一方方向に流れ、佇む二人を動かそうとしていた。

「起きなさ、あら起きているのね。早くこっちにいらっしゃい。」

僕は我に返った。
ドアの向こう側からは卵の良い匂いがしてくる。

ベッドからノロノロと立ち上がり廊下をゾンビのように歩いた。
ダイニングテーブルには好物のスクランブルエッグがベーコンと置かれていた。
椅子にどっかと座りぼうっとする。
さっきの世界の僕と違いこっちの世界ではすぐには頭が回らない。
僕のエンジンは温まるのが遅いから身体も動かない。

半分腫れた瞼を重いシャッターを開けるように持ち上げてみる。
しかし重力で瞼は閉じようとする。

「昨日何時まで起きていたの?具合悪いの?」

柔らかな光の中の人は聞く。

「わかんない。」

と言って僕の瞼は閉じた。
おでこをそっと触る気配がした。
おでこよりも温かな手は母のものだった。

アルと街に出かけたんだから。
夜更かししたに決まっている。
夜更かしというかアルといる世界は明るかった。
太陽がずっと昇っている世界さ。
だからずっと遊べるんだ。
時間なんてない。
そのうち昼も夜も季節だって再現する世界も出来るかもしれない。
星空を見ながら寝そべって蛍だって飛ぶかもしれない。

「これから行きます。」

母は学校に電話を掛ける。
これから意味のない時間を過ごす。

僕は小学生という自分の身分にウンザリしていた。
反抗するように手ぶらで登校する。
ランドセルなんて背中にへばり付くから嫌だ。

車での登校はこれは悪くない。ただ、やることが無い。
一体学校で何をしろというのか。

薄暗い人の臭いのする校舎に入り玄関で出る時に嫌々履かされた運動靴を脱ぐ。
渋々脱いでいるので時間がかかる。
母は横で根気よく待つ。
今は授業中で玄関に誰もいない時間だ。
わざわざその時間を狙って登校している。
人に会うことが嫌なのだ。
腹が痛くなってくる。ストレスなのかしょっちゅうだ。

靴を脱ぎ暗い校舎の廊下を歩く。
上靴がたまにキュッという。

僕は特別支援学級に所属している。
中庭の見える教室だ。
中庭にはプランターがいくつも置いてある。

ふとよぎるあの美しい草原の光景。

風と虫の声が脳内で聞こえる感じる。
早くあの美しい草原に帰りたい。
人の臭いのしないあの草原に。






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