ギルドか。

僕は自室の机に座って考えていた。
学校のノートを開いて「ギルド」と書いた。
まずはギルドについてよく知らなくてはならない。
ネットで”ギルド”と検索をすると、いろいろと出てきた。
よくわからないので、再度”ネットゲーム ギルド”と検索をかけた。
すると、わかりやすく説明しているサイトを見つけてじっくりと読んだ。

ギルドは、先日マニアが説明してくれた通り、現実世界の会社のようなものだった。
まずは社長=ギルドマスターであり、総最高責任者である。
今の僕。
自営業としてまずは始めようということなのだろう。
当然、規模が大きくなって来れば(株式会社にあたるのかな)マスターだけでは運営しきれないので、他にも役割を社員に分担してもらうことになるだろう。
僕はどうせやるのならいつかはこのギルドを大きくしたいと考えていた。

さて、名前を考えよう。
皆の意見もあるのだろうが、僕は自分の好きな青色にしたいと勝手に決めていた。
それとエンブレムである。
それも、慣れない絵を描いて完成させた。
これからの我が社、いや、ギルドの顔になるのだから慎重に考えた。
さらに、ギルドの方針である。
どういう意味で集まるのか。
ギルドメンバーをどういう趣旨に賛同してもらうのか。
ギルドメンバーをどういうところで選んでいくのか。

それらを僕はいつもの学習机の上でノートに鉛筆で次々と書いていった。
しかし漢字が書けないのでひらがなばかりになり、読みにくくなった。
これではいけないと、パソコンのメモ帳を開きそちらに今度は書き写した。
こんなこともあるから勉強しなくてはいけないのかもしれない。
そう思ったが、今はパソコンがあるし変換もしてくれる。
特に必要ないということだ、と勝手に脳内変換した。

コンコンコンコン
ドアを叩く音がして僕を呼ぶ声が聞こえた。
「なに?」
と言うと
母の声がしてガチャッと扉が開いた。
するとどうだろう。
珍しいどころかこんな光景は二度と見られない息子の姿を母は目の当たりにする。
真剣な目で学習机に向かい、ご丁寧にライトまでつけて鉛筆を持ちノートに何か書き込んでいるのだから。

「あら、お勉強?」
そう言うと母は冷たい飲み物とスイカを持ってきたと言った。
「うむ、そこに置いておいて。」
世間は夏休みに入ったばかりだった。
「そう?じゃあ置いておくわ。冷えているから早めに召し上がれ。」
しかし、そのスイカの存在を忘れてひたすらギルドのことばかり考えている息子はそのままネットゲームにログインしてしまったのだった。

「アル、マニア。来てくれ。」
僕は心なしか偉そうに二人を徴収する。
「ギルドの話すっぞ。」
ふたりはそれぞれ、あい、と返事して僕の前に風のように飛んできた。
嬉しく頼もしい仲間よ。
これからはお前たちとギルドを作り、僕はそのギルドを守るために全力を尽くそう。

「まずはな。ギルドの名前だが。「Blue」とする。異論は認めない。はい、次。ギルドのエンブレムはもう決めて描いてきた。これも異論は認めない。」
アルとマニアはうんうんと頷き、おkと言った。
「そしてギルドの方針だが。僕は遊びでやるのは嫌いなんだ。せっかく集うのならば真剣にやりたい。だから、それに準じることが条件だ。そして仲間内でアイテムの貸し借り、お金の貸し借りは禁止はしないが、個人間での問題としてもらう。そして・・」

僕はあれだのこれだのたくさんのギルドの方針、ギルドの規則を並べて話した。
「以上かな。何か意見はあるか?」
と、さっきから僕の話に聞き入っているアルとマニアに聞いた。
すると、「ない。」
と二人とも真剣な口調で即座に言った。
僕は、
「では、一応、ギルドであるから多数決を取ろう。賛成のもの挙手を。」
「ノ」
「ノ」
「ノ」
僕は一歩前に出て宣言をした。
「ありがとう。ではギルドBlueはこれより正式に集団として発足するものとする。」

僕はパソコンの前で嬉しくて顔が真っ赤であった。
涙もちょっと出ていたかもしれない。
感動の涙である。
僕が決めたことに、何も異論なく進むだなんて、現実世界ではなかったことだった。
必ずそれはおかしいあれはおかしいと、あなたは普通ではありませんと言われ続けてきたのだ。
それが、どうだろう。
ネットゲームの世界では、僕はギルドマスターとなりこれから君臨していくのだ。
この機会を大切にして、何が何でもこの僕の居場所を守ろう、そう固く思った。

「なんで夏休みにまでお前に会わなくっちゃいけないんだよ。」
するとデカイモンスターは不敵な笑みを浮かべた。
教室の傷だらけの椅子がギシギシと音を立てる。
以前よりその音は酷くなったような気がする。
あまり通わないから使わないせいか、僕の名前だけが変に真新しい。
その新しい白い名札のついた机に突っ伏して僕は抗議する。

今は夏休み。
世間一般は夏休みなのだが、僕はあまり通えなかったのでこのデカイモンスター(自称先生)に溜まりにたまった夏休みのプリントをもらいに来たのだった。
「まあまあ、そう言うなや。はい、これが夏休みの宿題。」
デカイモンスターは次々とプリントを寄越した。
「はあ。」
大きなため息をついて僕は、忙しくて宿題なんかやっている時間はないと言った。
そう、ギルド運営は思いのほか忙しく僕のネットゲームへのログイン時間は格段に増えたのだから。
デカイモンスターは、
「出来るところまではやってきなさい。」
と言った。

外の光はキラキラ揺れる。
手をかざしてみる。
指の間から光線が放たれたかと思うと、掌は真っ赤になった。
僕はその掌の赤を集めて、剣をシュッと出した。
長い長い光る剣だ。
それをデカイモンスターに向けて、素早く斬りつけた。
しかし、そのデカイモンスターは何もダメージが無かったようにただ血ではない汗をハンカチでぬぐっていた。


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