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【僕とサイコパスくん】
僕にはネットゲームで知り合った知人がいる。
その人は男性で18才、同い年である。
その人は、アスペルガーとサイコパス反社会性人格障害と診断されており、
現在自宅に家族と住んでいる。
彼とは二年前までネットゲームでよく遊んだものだ。
知り合ってから8年目だと思う。
僕は彼をてっきり年上だと思っていたし、彼もそうだった。
特に年令のこともお互いのことも聞かずにひたすらネトゲで遊んでいたのだ。
彼は記憶力が良く、アイテムのことはなんでも覚えてしまって、
僕は凄いなと一目置いていた。
彼は一人で居るのを好みあまり徒党を組もうとしなかった。
僕も仲間を作るのが苦手だった。
しかし母に教わりつつ人をまとめてトップに立つことが好きだったので
困ることは無かった。
彼はソロプレイばかり。
ただし、ネットゲームと言うのは一人ではプレイしにくいシステムになっており、
彼は途中で窮してしまった。
そこで僕がたまたま声をかけられたのだ。
彼の口調は非常に乱暴で上から目線。
「おい」だの「お前」だの、空気は読めないし(僕もそうだったけど)
協力なんて全くする気がないようだった。
僕はそんな彼に興味を持った。
彼は僕と遊ぶことを得をするからとばかりに露骨にあれこれ要求してきた。
そしてあろうことかアイテムを持ち逃げした。
ざっくりと持って行かれたが、僕は気にしなかった。
やるとは思っていたからだ。
翌日彼は平気な顔で僕の前に現れて、また遊ぼうと誘ってきた。
僕は何も言わずに彼とまた遊んだ。
彼は自分の都合ばかりを押し付け、僕に命令しまくった。
大いにゲームを楽しんでいる感じだった。
爽快なくらいだった。
僕は彼を観察することにした。
彼は利己的であり、人との関わりを重要には考えてはおらず、責任感もゼロだった。
人から何かされると、執拗に粘着し暴言を吐いて嫌がらせをしていた。
愚痴を延々と聞かされて僕はただ聞いていた。
彼は、そのゲームの中で悪人としてすっかり有名人となり嫌がられた。
それでも彼はお構いなしで、動じなかった。
清々しいくらい世界には自分しか居ないようだった。
僕はそんな彼と変わらず遊んでいた。
周囲の仲間は「あいつは厄介だからやめておけ。」と僕に忠告をしたが、やめなかった。
何故かって、彼の中に可愛い子供っぽさを感じたからだ。
年令が近いと思った。
学校がとか、自分のことはまったくお互いに話さなかったが、ある日夏休みの話になった。
確か10月に「おい、夏休みはもう終わったのか?」と聞かれた。
彼の時間の流れはゆっくりで、僕も同じだったが、その時は僕もすぐには答えられなかった。
僕も夏休みがいつまでなのかを知らなかったからだ。
僕と彼は、その夏休みの話でお互いに学校に行っていないことを知った。
後で知ったのだが、彼は小学校中学年から不登校であり、以来学校には行かなかったそうだ。
理由は「学校は価値がないから。」だそうだ。
そして仲良く遊ぶにつれ、僕は彼のことを友達になれるんじゃないかと思い始めた。
ある日、僕は彼に聞いてみた。
「僕たちはなんとなく似ているよね。もしかして友達っていうものなんじゃないの?」
すると彼はなんと答えて良いのかわからないのか、少しの間黙り込んでしまった。
そして「そうは思わない。違うと思う。」と言った。
はっきりしているなと笑って居たら彼は言った。
「お前はいいやつだ。それだけ。」
と言ってどこかに行ってしまった。
そんなことがあっても、僕と彼はたまに遊んではゲームを楽しんだ。
あれから何年経つだろう。
相変わらず僕は彼とコンタクトを取っている。
彼から連絡があるのだが、本当に変わっていない。
ネットゲームを続けているのだ。
今年の春、僕は高等部を卒業したときに、食事をしようと誘ってみた。
すると彼は喜んで承諾してくれた。
彼と8年遊んでいるのに、僕ははじめて彼と会うのだった。
待ち合わせは後楽園前。
水道橋まで母に送ってもらい、待ち合わせの場所に向かうと彼はもう着いていた。
彼は「よう。」と言った。
そして、彼はすぐにネットゲームの話をはじめた。
彼は思っていた通りの少年だった。
そして僕と同い年で背が高くて大人っぽいのに中身が子供な感じだ。
僕は面白くなった。
お昼だったので彼とラーメンを食べた。
食べながらも彼の好きな話が続いた。
目がキラキラして頭もクルクル回り饒舌だった。
食べ終わり会計をするときに、彼は千円札をぶっきらぼうに出して僕に突き付けた。
僕だって会計は苦手なのに、この時は本当に困ってしまった。
頭が真っ白になりかけたが、彼の目の前でそれはまずい。
僕は勇気を出して会計を済まし、振り向くと彼が居なかった。
店を出たのかと思い探した。
しかしそれっきり彼は見当たらない。
探すにも探しようが無く、電話しても彼は出ない。
仕方なく母に電話し、迎えに来てもらった。
帰宅後スカイプを見ると彼が居た。
「突然居なくなってどうしたの?」
と聞くと彼は、
「ああ、また行こうぜ。」
とだけ言った。
なんと彼は即帰宅していたのだった。
僕は、さようならも言わないで帰宅した彼にムッとしたが、
まあいいかと思った。
彼は自分の目的だけ済めばさっさと帰るようだった。
自宅が後楽園から近いということも後から知った。
ラーメンを彼と食べてから僕たちはたまにお昼を一緒に食べるようになった。
そこでやっとお互いのことを知る。
僕が障害があることや、今の仕事のこと、年令のこと。
彼は黙ってステーキを頬張りながら聞いていた。
そして、僕の話が終わると、肉切ナイフを片手に彼は
「ああ、まあ、僕もそうだ。その反社会とかアスペ。
お前と感覚が近いとは思ったがそういうことか。
ようアスペくん。」
と言って大笑いした。
彼は更に
「ああ、サイコくんにすっかな。まあどっちでもいい。
僕はお前は愚民じゃないと思っていた。
頭がいいし同じことを感じている。だろ?
僕たちが標準なんだから。これが普通ってこと。」
僕は彼の言うことをまるで自分が鏡でも見ているかのように感じた。
ニヤニヤが止まらず嬉しくなった。
僕が、障害のことを自分から話したのは彼がはじめてだった。
そうして質問を彼にしてみた。
「じゃあ、僕たちは友達なの?友達になれるの?」
すると彼は、
「友達だって!?それは無理だ。友達なんて知らないよ。」
そういうと思った。
僕は、うなづいて
「じゃあ、なんだと思う?」
と聞いた。
彼は、うーん、と唸ってから、肉をブスブスと刺しながら
「違う星から来た人同士かな、いや、とにかく、
ここ地球の人じゃないもの同士ってことかな。
違うかな?うーんそれ以上はわからない。」
と言った。
そして、また
「ようサイコくん。」と笑った。
僕はおかしくなって
「お前もな。」
と言った。
彼とはお互いが言いたいことしか話さない。
一緒に何かをすることは、食事を取るだけだが、合わせようとはしない。
また、僕は煩い場所だと相手の言葉が聞き取れないので、
たまに彼の話している言葉が聞き取れないことがあった。
すると彼は、わざわざLINEでURLを送りそれを見ろと言った。
そしてそのURL先のニュースのことで彼は延々としゃべり、また僕の意見を聞いた。
そうしているうちに、彼は僕に「なぜ?」を連呼するようになった。
そのたびに僕はあれこれ説明をした。
必要なことしか聞かない彼は、「雑談が大嫌い。」と言った。
僕もそうだが、彼も苦手なのだと言う。
彼のことが少しずつわかってきた。
特に犯罪歴も無く、家族と同居しており、ネットゲームを起きている間はやっているのだそうだ。
外に出ることは無く、僕と会うときだけ、家族に連れてきてもらっているのだそうだ。
僕と同じことをしていたのだ。
暴れることもなく、家ではおとなしいのだそうだ。
ただし、社会に出ることだけは難しく、人とうまくやれないことを言っていた。
コミュニケーションも取れずに、自分勝手なので、無理だと言っていた。
「働いてもいいとは思うが、うーん。ねぇ・・・。」
で終わってしまう。
多少、何とかしたいと思うのだそうだが、考えると不安定になるそうだ。
今は、親が長生きしてほしい、ずっと居てほしい。
ということと、先日の小型機墜落事故のことをあげて、
「なんとか防御しないとヤバイと思う。どうしたらいいか。」
と僕に聞いてきた。
僕は、「宝くじよりも確率が低いぞ。」と言うと彼は「同じことを考えたよ。」と笑った。
彼は憎めないヤツだ。
彼は、幼少時やはり兄弟を苛め抜いたそうだ。
そして、支配に囚われてしまい、学校で問題を起し、服薬もしたそうだ。
そのことを彼は思い出しながら
「ま、あの時は僕のせいじゃないから。」
と反省の色は無かった。
彼を見ていると僕を見ているようだ。
僕も少し前までこうだったのだから。